京都一周トレイルの東山コースを終えたのが、2023年10月7日。
その後の一年半、京都一周トレイルを歩くことは一度もなかった。
理由はいくつかある。
第一の理由は、一緒に歩く妻の
上半身のコンディション不良だ。
この言い方、いつの頃からか、プロ野球選手の欠場や二軍降格などの理由に使われるようになった表現だ。
右肩に違和感があるとか、左肘が炎症を起こしているとか、右人差し指の爪が割れているとか、左鼻が詰まっているとか、あえて公表する必要がないことを婉曲的に表現しているのだろう。
妻についてもあえて公表する必要がないので、便利な表現を使わせてもらう。
第二の理由は
、北山コースにちょっとビビっていたのだ。
私はこの「
京都一周トレイルⓇマップ&ガイド」(京都トレイルガイド協会編著)という本(以下
M&
G)を参考にして歩いている。
この本によると、これまで歩いた東山コースのコースレベルはこうなっている。
東山コース1 伏見桃山~伏見稲荷 9.5km 「コースレベル▲△△」
東山コース2 伏見稲荷~蹴上 10.3km 「コースレベル▲△△」
東山コース3 蹴上~大文字山~銀閣寺 7.1km 「コースレベル▲▲△」ただし一部のみ「▲▲▲」
東山コース4 銀閣寺~ケーブル比叡 7.2km 「コースレベル▲▲△」
すなわち、レベル1と2だけなのだ。東山コース3の「▲▲▲」は不安なので迂回ルートに逃げたぐらいなのだ。
それが、
北山東部コース1 ケーブル比叡~戸寺(大原) 9.8km 「コースレベル▲▲▲」
いきなりレベル3! 距離も過去最長!(東山コース2は10.3kmだが、初めて歩いた時だったので2回に分けた)
しかもトレイル最大の難所があるという噂を耳にした。
トレイルの最高地点まで登るという話もある。
コースにビビる→ブランクが空く→余計に不安になる→余計にブランクが空く→さらに心配になる→さらにブランクが空く
こういった悪循環に陥っていたのである。
理由はそれだけではない。
しかし第三の理由以降は、暑いとか寒いとか大雨とか大雪とか曇りとかクマが出るとかスズメバチが出るとか花粉症とか腰が痛いとか膝が痛いとか耳がかゆいとか深刻さもまちまちで、言っても仕方ないことだらけだ。だから言わない。
というわけで、いたずらに一年半のブランクを作ってしまったが、妻の上半身のコンディション不良もずいぶん癒えたし、動画やブログで予習も重ね、実際に同じコースを歩いた友人にもアドバイスをもらった。
気候や天候はちょうどいいし、体の不調を言い出したら一生行けないのもわかってる。
ついに行動を起こすときが来た。
ケーブル八瀬駅。北山東部コースは東山コースの終点から繋がる。
つまりケーブル比叡駅まで、このケーブルカーで行くわけだ。
近くにある叡山電鉄八瀬比叡山口駅から徒歩5分。
8:55に着いて速歩しながら歩いたが、9時発の始発に間に合わず。
まだケーブルカーは出発していなかったが、改札は終わっていた。
茫然と立ち尽くす私の目の前で、無情にもケーブルカーは登っていったのだった。
箱根駅伝の中継所にずいぶん遅れて走ってきたランナーの目の前で、残酷にも繰り上げスタートで次のランナーが走り出すやつみたいだ。「タスキは繋がりませんでした!」とアナウンサーが叫ぶやつや。ちょっと違うか。
以前は目の前を流れる高野川に橋が架かっていたそうだが、撤去されたので遠回りするしかなくなった。
次の便まで30分。駅の人に勧められるままプチ花見と参りましょう。
ちょうど満開ぐらいだね。
ここに橋が架かっていたのか。橋脚の跡だけ残ってる。
ケーブル比叡駅までは600円。そこから山頂までロープウェイに乗ると1000円。
八瀬かえで。こういうアニメっぽいキャラクター、あちらこちらにいるよね。
切符にハサミを入れてくれる懐かしいシステム。ハサミの形が紅葉。粋だねぇ。
背景は私のふともも。
窓越しに桜が見えるぞ。
これでもか。
これでもか。
ケーブル比叡駅まで、約9分の旅。到着。
この八瀬ケーブルは日本一の標高差561mを誇る。
ちなみに琵琶湖側の坂本駅から延暦寺駅までを繋ぐ坂本ケーブルは2025mで長さでは日本一。
つまり標高差日本一と長さ日本一の二つのケーブルカーが比叡山にあるってこと。結構すごい気がする。
ロープウェイ駅の近くからの眺め。天気はいいけど、全体的にモヤッとしてる。
白い丸は何かを示すために写真に加工したものではなく、ワイヤーで実際に吊られているかわら投げの的です。
ようやく起点にやって来た。ここまでの文章と写真、いらんと言えば全部いらん。
道標No.1。ここから根本中堂、釈迦堂に向かうコース。9:45出発。
この道標の足下を見たら、やっぱりクマ出るかもね。冬眠明けのクマは危険度マシマシらしい。
早速上り坂。今回のコースは基本下りが多いはず。比叡山を出て大原の里まで下る。
でもとりあえず上り坂。ロープウェイの下も通る。
もう息が少し上がってきてる。まだ1だけやぞ。
道標No.2に到達。
ここからは道標の全身像と顔部分を並べて載せよう。
載せたところで誰も喜ばへんとは思う。
でも特に今日は道標の画像やめたら、ホンマにカスカスになるのは確実。
ここは元々スキー場だったらしい。
後ろを歩いていたオバちゃん5人組に追いつかれた。
元々ケーブル八瀬駅から一緒だったグループ。
私たちより歳はそこそこ上、七十代だとお見受けするが、なかなかの強者揃いと見た。
そもそも先に行ってくれたらいいのに、ゆっくりしてたので先に出てきたのだった。
ちょうどいい道案内ができた。
付かず離れずで後を追うことにしよう。
右に曲がると石碑がある。漢字じゃないな。いわゆる梵字というやつかな。全く読めん。
何となく緩い坂道を歩いているうちに、道標No.3。
タヌキらしき獣を発見。レンズがとらえた!と思ったらボケボケだった。
平坦な道を歩く。つつじヶ丘と呼ばれる辺りだが、ツツジが咲いていないのでよくわからん。
道標No.4に来た。オバちゃんたちが休憩していたので追いついた。
景色が広がる。基本的にモヤッているので、いい眺めと言うほどではない。
こういうベンチがいくつも設置されている。いい休憩場所になっている。
オバちゃん5人組は既に出発している。姿がもう見えん。
石積みアートやってる人がいるよ。ロックバランシングっていうんか。
石がゴロゴロの道が続く。左側、まだ石積みやってるぞ。アートではないな。
道標No.5は京都府と滋賀県の県境の辺りになるらしい。
鎮護國家の碑。拝んでおきましょう。
だいたい日があまり差さないような林の中を歩いているのだが、明るいところに出た。
道標No.6からは東海自然歩道と道が重なる。比良比叡トレイルというのもあって、一部重なっているようだ。
まっすぐ行くと延暦寺の東塔エリア・根本中堂方面になるが、京都一周トレイルはそちらには行かず、西塔エリアに向かう。
奥比叡ドライブウェイの上を歩道橋で横断する。
歩道橋の上から。あまりクルマが通らない。
渡ったところに道標No.7。6と7は、このコースでは最も間隔の短い道標だな。
道標No.7の目の前に
山王院。
いよいよ延暦寺の境内に入ってきた感じ。まあ比叡山全体が延暦寺の境内ということらしいけど。
この山王院あたりまでは東塔エリアに入るらしい。
久しぶりにオバちゃん5人組を見たが、追いつくには到らなかった。
代わりに東海自然歩道を歩いてきたと思われる青年と一緒ぐらいになった。
長い石段を下りる。下りは足の負担が大きいが、まだ大丈夫。
石灯籠には「御廟前」と彫られている。「ごびょうまえ」と読むのだろう。と思った瞬間、頭に浮かんだのは広◯涼子のデビュー曲
「MajiでKoiする御廟前」。ひどい変換ミスやぞ。不謹慎やぞ。でもかわいかったよなぁ、あの頃。
奇しくもこの日、家を出るちょっと前に広◯涼子容疑者が逮捕されたというニュースを耳にしてしまったのだ。
「MajiでKoiする」の部分も何かうまく変えられないかと考えかけたが、不謹慎なのでやめた。
野鳥のお話。そうか、比叡山は誰でも勝手に入って勝手に何かするってことが、昔々からできない場所だったんだ。だから鳥たちもそのまま生き続けてこられたとわけだ。
そう言えば鳥の声はいろいろ聞こえてる。鳥の鳴き声を理解できない私は残念と言うしかない。
浄土院。伝教大師最澄の5秒があるらしい。こらこら。
御廟とちゃんと書かんと。
しまいに怒られるで。ガイドブックにも「延暦寺では最も清浄な聖域である」って載ってるし。
この道を行く。浄土院は有料エリアなので、覗くだけ。
覗いた。きれいなお庭。写真ぐらいは許されるかな。
さっき出会った東海自然歩道を歩いていると思われる青年は拝観料を払ったようで、中に入っていた。
道標No.8。西塔の巡拝受付所の手前。
オバちゃん5人組のリーダー格のオバちゃんと初めて会話を交わした。
スイスイ行くので歩いたことがあるのかと思っていたが、初めて歩くコースだそうな。
責任感の強いリーダーオバちゃんは、確かにこの道標の図をよく見ていた。
お互い、気をつけていきましょう。
あれれ、オバちゃん、そっちじゃないと思うぞ。
ここは事前に見ていた動画で、動画主が道を間違えてタイムロスした場所。
慎重になっていたので、あっという間に進んでいったオバちゃん5人組を呼び止めることもできず。
確かに延暦寺の西塔エリアのようだ。石造りの五重塔は
五重照隅塔というものらしい。
これは
椿堂。オバちゃんたちはそっちに行った。
もしかしたら知ってて巡拝受付所に向かったのかも知れない。
我々はこんな道を進む。
道が崩れて途切れてる。
一年半ほど前にこの道を通った友人から写真付きの情報をもらっていたが、一年半の間修繕されずに放置されておったのか。
崩れている道のすぐ横に道標No.9-1。もうすぐトイレがある。
トイレを見つけると、何と違う道を行ったはずのオバちゃん5人組が先に着いてるではないか。やはり金を払ってショートカットしたか。
釈迦堂(転法輪堂)。トレイルを歩くだけの人は有料拝観エリアへの立入は禁止だが、どこからが有料エリアだったの?
近くで見たかったけど、ダメかも知れないので遠くから撮影。
ガイドブックには「神聖な修行の場であることを認識して忠実にコースを辿ろう」とある。
トレイルコースは本来巡拝料が必要なエリアを無料で通らせていただいているということらしい。
だから歴史に思いを馳せながらつつましくさっさと通り過ぎよ、ってことね。
観光バスを乗り付けてやってくる団体さんは、少々やかましくてもお金払ってるからいいのよね。
みんながみんな神聖な修行の場だと認識してるかどうかだね。
ま、金も払わず歩かせてもらっている以上、さっさと行きますよ。トイレは貸してね。
ところで、初めのほうにガイドブックを紹介して(以下
M&
G)と書いた。しかし、その後一度もその略称を使っていない。
へたに赤文字などを使ったので、邪魔くさくなったとしか言いようがない。
既に何度か「ガイドブック」って言うてしもてる。いまさら
M&
Gっていうのもね。P&Gみたいだしね。
トイレを使わせてもらうと、すぐ近くに道標No.9-2。
東海自然歩道の道標のほうが少し威張ってる。
オバちゃん5人組に先に行ってもらって後を追う。
若山牧水の歌碑。
比叡山の古りぬる寺の木がくれの庭の筧を聞きつつ眠る
牧水は大正七年五月に比叡山に登ったそうだ。
「比叡山」という文章も残している。読みたかったら、青空文庫でどうぞ。
居士林食堂跡を越えたら、ということだったが、どこが居士林(こじりん)なのかわからなかった。
でもそこに、道標No.10-1。
ドライブウェイの下を通るトンネルをくぐる。
頭上注意の看板どおり、背を低くして通ります。でもチビの私は直立歩行でOK。ラッキー(T_T)
トンネルを抜けるとすぐに道標No.10-2。
後ろにドライブウェイが見える。
この辺りまではオバちゃん5人組の姿も見えたんやけど。
この辺りはずっとスギかヒノキの林だと思っていた。
花粉症対策でマスクをしていたが、息が上がりやすくなるので外していた。
モミだったか。むしろ花粉症改善にいいという話もあるらしい。そうか、そうだったか。
峰道と呼ばれる回峰行の道。比叡山には
千日回峰行という7年間に1000日歩くという修行がある。以下は例によってwiki先生の受け売りです。
1~3年目までは、1日30kmを100日連続。4~5年目はそれを200日連続。
6年目は1日60kmを100日連続。7年目は前半100日は84km、後半100日は30km。
最初の3年間で30✕100✕3=9000km。次の2年間で30✕200✕2=12,000km
6年目は60✕1000=6,000km。7年目に到っては、84✕100+30✕100=11,400km。
合計38,400km。地球一周みたいなもんやん。
修行とは言え、過酷過ぎる~。「過酷過ぎる」は変な表現か。過ぎ過ぎやな。
しかもこのアップダウンだらけの道。
いや、アップダウンだけじゃない。木の根道やらガレ場やらザレ場やら歩きにくい道だらけ。
階段を降りたところに道標No.11-1。
結構長かった峰道を一旦中断。
コースを外れてドライブウェイを横断し(横断歩道はないよ)、峰道レストランへ。
峰道レストラン。駐車場がデカい。路線バスの停留所もある。
途中でリタイアするならここやな。
トレイル用ではなく、ドライブウェイ用に作られたであろうレストラン。
ちょっとトイレ休憩。
トイレはこのあと、今日の終点である戸寺までない。
見晴らしはいい。琵琶湖がよく見える。モヤモヤでどの辺りなのかよくわからん。
伝教大師の像の頭にカラス。
さすが
最澄さん、表情一つ変えない。
すぐに道標11-1の分岐に戻り、再び峰道を進む。
京都府と滋賀県の県境あたり北上している。すぐ東側のドライブウェイともしばらく並行。
それほど歩きにくい道ではないが、次の道標までが遠い。
西側は木がやたらに倒れていて荒れている。
ようやく道標No.11-2を発見。と言っても、まだ道半ば。
車道の横に
「奥比叡八景 二河の白道 極楽への道」という看板。
調べたところ、二河の白道(にがのびゃくどう)は、水の河と火の河の間に通る白い道のこと。
人間の欲望を表す水の河と怒りを表す火の河の間が極楽に通じる道なんだとか。
でもなぁ。ドライブウェイに極楽への道ってどうなん?気ぃつけて運転しぃやってこと?
もひとつ、奥比叡八景がわからん。
八景をまとめて紹介しているサイトが見つからん。
この看板に掲載されているURLにアクセスすると、奥比叡ドライブウェイのHP。
奥比叡八景は出てこなかった。
そもそも滋賀県には近江八景と琵琶湖八景がある。それに乗っかったん?
峰道はまだまだ続く。
でも目標の地点にはかなり近づいたはず。
玉体杉に到着。
上半身。
下半身。
でっかすぎて、一枚に収めるのは無理。
ここで久しぶりにオバちゃん5人組に追いついた。
結構長く休憩していたのかも知れない。
入れ違いぐらいで出発していったけどね。これが彼女たちを見た最後になった。
相変わらずモヤッているが、京都市内の景色を拝める。
拝めると気安く書いたが、実際ここは回峰行者が京都御所に向かって玉体加護の祈祷をした場所。
って、さっきの説明板に書いてあった。
ついでに、スギが日本にしかないことも初めて知った。
まあ花粉症はスギだけじゃないから、外国に花粉症がないということにはならん。
さあ、昼飯にしよう。12:18。ここまで3時間半。ちょっとかかりすぎ。
今日の昼食。叡山電鉄出町柳駅の近くで買っておいた。
正三角形より二等辺三角形に近い、ちょっと珍しいおむすび。
ピリ辛高菜、ゆかり、鮭わさび。
塩加減強めでおいしゅうございました。
木々がバキバキに倒れてる。風を遮るものがない場所なんかな。
下っていくと、
峰辻に出た。道標12。今日のゴールは23なので、やっと半分を越えた。
東はドライブウェイの下を通って横川中堂へ。西は大原街道登山口バス停へ。
私は南から来て、そのまま正面突破を図る。
いよいよ、
京都一周トレイル最大の難所に挑むのだ。
ここから横高山の頂上を目指す。
せりあい地蔵。
りっぱできれいな案内地図。ここは山の中には珍しい四つ辻だからな。
この急登を登りきらなければならない。標高差80m。
あれ?急登にも見えないし、最大の難所であることの説得力がない。
写真が下手すぎるか。残念。
数分間登った辺りでさらに上を写した。
冒頭にも使った写真だが、これもそれほどでもないか。
とにかく急であるだけでなく、かなり厳しい木の根道の連続。
どこにストックをついて、どこに足を運んだらいいか考えながらゆっくり登った。
さらに強風にも悩まされた。何度も立ち止まって風をやり過ごした。
調子に乗ってると、体ごと持っていかれそうな風。
時間にしたら10分ちょっとだが、体力は大きく削られた。
横高山の頂上。767m。せっかく登ったが、特に絶景が見えるわけではない。
道標No.13。
さあ、下るぞ。
道標No.14。
左から来て右に行けというだけの道標が多い。
なくても道を誤ることはないが、道標が出てきてくれると何となく安心する。
さらに下るとすぐに道標No.15。
コル(鞍部)であることがわかりやすいように少し離れて撮った。わかりやすい?
「コル」という言葉は初めて知った。山歩き素人丸出し。
さあ、ここから第二の急登。
全然急登に見えん。まあ、この辺はまだだったんだろう。
これも急というよりは、道がひどい。倒木と木の根とガレ。
少しでも楽に登れるようにコース取りを考えるのが、しんどいような楽しいような。
こちらも10分ちょっとで到着。
水井山の頂上。
794mは京都一周トレイルの最高地点だそうな。
鳴くようぐいす水井山。ウグイスは鳴いてへんかったけど。
頂上である証拠に三角点を写しておいた。
道標No.16-1。
横高山に比べて急登という意味ではマシだったが、体力が落ちているので息がゼーゼー言うた。
木を写したかったのではなく、せっかく頂上まで登ったので何か景色が撮れんかと思って東西を写した。
ほぼ景色は写っていない。
もうほとんど下りしかない。
道標No.16-2。左の道に行っちゃダメよってこと。
コールポイント。
「ルルルルル・・・こちら消防です。火事ですか、救急ですか。」
「救急です。両方の足首を捻挫して動けません。イタタ・・・」
「今いる場所はわかりますか。」
「京都一周トレイル北山東部コースの16-2付近です。イタタタ・・・」
「えーっと、それはどの辺ですか。」
「水井山の山頂を過ぎてしばらく下ったところです。イタタタタ・・・」
「水井山ですね。どちらの方角に下りましたか。」
「どちら?えーっとえーっと、横高山から来たから・・・イタタタタタ・・・」
「北向きですね。」
「あ、コールポイント比叡43の地点にいます。」
「それを先に言わんかい。」
まあ、こういうことやろか。でもコールポイントはあと1ヶ所ぐらいしか見なかったなぁ。
コールポイント比叡43からずーっと下ったところです、ではあまり意味ないか。
あまり意味のない道標No.16-3。
倒木が道を塞いでいる場所もある。
これを跨ぐだけでも、だんだん足が上がらなくなってきてることが自覚できる。
道標No.16-4。歩きやすい道もあるが、下りだけっていうのもかなりしんどい。
歩きにくい下り道はホンマにキツい。
人生、下り坂サイテー!
キノコいっぱい。たぶん食べたらあかんやつ。
道標No.17は東海自然歩道との分岐点。
トレイルコースはそのまま仰木峠に向かって下る。
「峠」って、文字通り上っていってそこから下りになる場所なのに、そこに向かって下るってちょっと変。
水井山から歩くと下るのだが、東西で見ればちゃんと峠になってるんだろうな。
東は大津市の雄琴に繋がるし、西は京都大原に下りていける。
久しぶりに
二階堂の道っぽいな。
二階堂の道とは「大分むぎ焼酎二階堂」のCMに出てくるような何とも味わいのある道のことを表す、はむおじさんの造語。
私以外誰も使わないのでググってもさすがに出てこないが、画像を検索したらはむおじさんのブログがやたらに出てくるぞ。
この手すりの道もそうだが、道標No.17から東海自然歩道と共用なので、歩きやすい道が多い。
仰木峠にやってきた。標高でいうと水井山山頂から220m下ってきたわけだ。
それにしてもキッタネー看板。赤い紅葉はかわいいのに。
道標No.18。ここから大原の戸寺まで標高差は355mもあるそうだ。
今日はあまり人に会わないが、何組かの人たちに追いつかれ、抜いてもらった。
やっぱり皆さん、どんどん歩かはるなぁ。下りも跳んでるようなもの。真似できまへん。
こういった小さい橋を渡る場所もある。
落ち葉に埋もれそうな場所もある。
道標No.19。ついに来てしまったこの19。
トレイルの道標って、遠くから見るとちょっとカオナシに見えるときがある。
「千と千尋の神隠し」のやつ。体が黒っぽくて、顔だけ白い。
横から見た方がそう見える。どうでもいいけど。
落ち着くために東海自然歩道の標識の上にある小っさいおっさんを見よう。
いや、この方は道祖神じゃないのか。
ここは重要な分岐点。トレイルコースは正面のボーイスカウト道を下る。
これがなかなかの急坂下りなのだ。散々下りを歩いてきて今から急坂か。
右は東海自然歩道を通り、大原まで下りるパターン。
自信があるとは言えないが、ここまできてコースを外れるわけにはいかん。
東山コース3の最終盤の急坂を回避したこと、今も少し後悔しているのだ。
行ける。
こういうことか。スキーを始めた頃、リフトで登ったところからいきなり滑り降りるのが怖かったのを思い出した。
その時は、怖がらずに谷に吸い込まれるように落ちていくとうまくいくと教えられ、確かに滑れた記憶がある。
でも、ここではダメだ。吸い込まれるように落ちていくと、ホントに落ちる。
走って降りられるほどの体力も運動神経もない。
おそらく「高齢者男性、トレイルコースで滑落」というフレーズで報道されることになろう。誰が高齢者男性やねん。私や。
とにかく下った。道があるような、ないような。
ヒザがガクガクする。ストックをつくのがいいか、つかないのがいいか。
横向きに降りようとすると、今度は腰が痛くなる。
写真を撮る余裕もなく、ひたすら下った。長い。まだ下が見えない。
沢のせせらぎが聞こえてきたら、という説明も読んだが聞こえない。
ザワザワ言ってるのは、風の音だ。
「スカウトの森造林地」とある。ボーイスカウト道の由来だな。
遠くから見て、トレイルの道標らしきものが見えた。
こんなところにあるわけがないのだが。
近づいてみると、形は道標そのもの。でもホントのカオナシだった。
作る予定だったのをやめたのかなぁ。
もうほとんど下りきったぞ。もうヒザがガクガクじゃ。
よく捻挫もせずにここまで来たもんだ。捻挫してたら119に電話して、「コールポイント比叡43からずーっと下ったところです」って言わなあかんところだった。
遠くからこれが見えたとき、何か知らない鳥獣か怪物か何かが佇んでいるのかと思った。
あるいは誰かがこんな場所に妙なオブジェを作ったとか。
ただの倒木の根っこだった。
ついにボーイスカウト道の終わりを告げる道標No.20が現れた。ほっとした。
下り始めてからここまで、35分ぐらいかかってる。
川を二つ越えるのね。
これは二つ目の川にかかる橋。渡った先に道標No.21。
一つ目の川って、水がちょろちょろ流れているだけで、一歩で跨げたぞ。
ようやく路傍の花を愛でる余裕も出てきた。カタバミ?
なぜ緑のペンキを塗るかなぁと思うくらいに、びっしりと苔むした倒木。
何を写したんだっけ。そうだ、横の沢を流れるせせらぎがあまりにも清冽だったので撮ったんだ。
水が流れているように見えないか。透明度が高すぎて見えないということにしておくれ。
旧若狭街道を示す看板。ここも鯖街道だったのか。
今の私の感覚ではもっと西のほうにあるルートをイメージするが、かつては小浜から京都に到る道はいくつもルートがあったらしい。
後ろに人がいる気配は全くなかったが、突然2人の異国人に抜かされた。トレイルラン?
ボーイスカウト道も走り降りたの?すげー!
しかもこの人たち、少しすると引き返してきてまたすれ違ったぞ。すげー!
今からボーイスカウト道を駆け上がるってこと?すげー!すげーすげー!
ちゃんと挨拶もしてくれる礼儀正しい人だった。すげー!それは普通か。
もうゴールは近いぞと思った矢先、何?あの金網?
通行止めなので引き返してください。そんなアホな。
害獣対策の扉。安心してください。通れますよ。
予習していたからビビることもなかった。知らずに来たらとりあえず焦るね。
程なく道標No.22。他の標識は朽ちて倒れてるけど、しっかり立ってくれてうれしいぞ。
この先にある公民館のトイレを使わせてもらえる。募金箱にお金を入れましょう。
もう終わりだと思って気を抜いて見逃すところだった。
道標No.23。過ぎてから撮りに戻った。それぐらいの脚力はまだ残っていた。
ゴール! 京都バス戸寺バス停。ここから国際会館まで行けば後は家まで帰れる。
斜向かいにある
味工房志野。ポン酢やドレッシングが中心だが、土産物もある。
私たちは100円のしそジュースをいただいた。体に染み渡る~。
バスを待つ間、何と雨が降ってきたが10分ほど待って車中の人となったのであった。
歩いたぞ。もう達成感しかない。この言い方、好きじゃない。
達成感でいっぱいだということを、さらに大袈裟に言いたいんだろうけど。
達成感しかないわけないやん。疲労感もあるよ。自信もついたよ。ビール飲みたいよ。足、痛いよ。
しんどかったけど、不思議なことに次のコースを歩きたくなった。今すぐじゃないよ。
でもできたら近いうちに行きたいな。
この後、国際会館駅について階段を降りるとき、太腿の前側とふくらはぎが泣くほど痛かった。
一段一段「痛っ!」と言いながら降りたのだった。